夢に出てきた小鬼

私が幼児の頃、家業は炭焼き職でありました。

夏の間はいつも山奥の炭焼き小屋で遊び泊まる数日間でした。

その期間も終わり、ある日の夕暮れ

爺さんとテクテク山を下りてくると、

向こう山の岩場に小さな鬼さんたちが、ワイワイと楽しく遊んでいました。

その光景が ”鬼さん” の原点です。

ずっと後々の分別で思えば、あれば猿であったのだろうと思います。

ところが、その風景や姿が、

大人になっても幾度となく夢に現れて遊び回る。

しかも猿ではなくて、小鬼の群なのです。

そこで私は、古式ゆかしい伝統模様であるべき美術九谷焼に鬼の遊戯図を描いて、

先人に叱られてしまいました。

それでも自分は、心の絵が面白くて、

伝統の既成を無視して、作品にも商品にも隔てなく、鬼さんを遊ばせた。

様々な展覧会、展示会に鬼図の作品を出しているうちに、

なぜか入選、入賞が続き、そうしているうちに

「幸(ゆき)さんは、鬼の作品で行くべし」と言われるようになりました。

鬼とは何なのか

鬼(おに・き)は、隠(おん)から派生したもので、

人の目に見えない存在、精霊や霊魂、怪物を表現したそうです。

そのほかにも、神のような不思議な力を表すこともあれば、

地獄の餓鬼のように、恐ろしく忌むべき存在を表すこともあります。

通常の人間ではあり得ないくらいの特別な力を表すことも。

多くの意味を持ってる鬼ですが、

私が思う鬼とは、

仕事の鬼と称されたり、

怖いくらいに真剣な有様を、鬼気迫ると表現するように、

”徹底する者”のことであろうと思っています。

愉しさと哀しさを併せ持つ

私が描く小鬼は、そんな恐ろしさとは無縁で、

人々の暮らしや心の中に、ふと現れて

和ませてくれたり、話しかけてきたり、

いたずらしたり、遊んだりしています。

愉しさの中に哀しみが同居する存在で、

鬼さんの正体が、なんであるかは、わかりません。

それは、自分であったり、他人であったり、

家族やペット、友人かもしれません。

ただ、私の作品の中で、彼らはいつも自由に生きています。

谷口 幸夫 Yukio Taniguchi